Little Tibet in Tokyo構想

 日本におけるチベット学は、いま危機的な状況にあります。これまでチベット研究を担っていた大学は、国公立は独立行政法人化、私立は若年人口の減少に伴う定員割れの危機に直面しており、不要不急の講座を統合・廃止する動きが加速しています。
 従来仏教系大学などに存在していた古典チベット語やチベット仏教のポストも、教員の停年退職に伴って廃止されることが多く、このままでは関西の大手仏教系大学を除いては、チベットの専門家がいなくなるという事態が予想されます。
 また(財)東洋文庫のチベット研究室閉鎖に象徴されるように、チベット関係の貴重な資料の閲覧や調査も、いままで以上に困難になってきました。
 これは近年、アジア研究の全般的退潮にもかかわらず、チベット学の講座がつぎつぎと新設されているヨーロッパや北米の情勢に、完全に逆行するものといわざるを得ません。
 私たちがチベット学を志した頃は、チベット亡命政府のアジア太平洋地域代表を務めていたペマ・ギャルポ氏が、チベット文化研究所の所長を兼任しており、その後(宗法)チベット仏教会の法人格も取得したため、そのオフィスが、日本におけるチベット文化の発信地となっていた一時期がありました。
 その後、チベットやチベット仏教に対する関心の高まりにつれ、国内にも多くのチベット仏教教団が誕生しましたが、最近は小規模な団体が乱立ぎみとなり、狭いオフィスには必要最小限の資料しかなく、数10人規模の法話や講演会にも、いちいちホールを借りなくてはならないというのが実情です。
 私が英国オックスフォード大学に短期留学していた頃、ロンドンでは亡命政府の代表部、チベット基金のオフィス、チベット関係の書籍やグッズの販売店などが大英博物館西側の一帯に集中しており、チベット好きの人々の溜まり場となっていました。いっぽうニューヨークにも、亡命政府の代表部をはじめ、チベット基金、チベット・ハウス、ルービン美術館やチベタン・レストランなどが、マンハッタン島の中心部に集中しており、タクシーなら、相互に15分ほどで行き来できることに驚きました。
 東京にも、古典チベット語のテキストから英語・日本語の参考書籍まで、いちおう揃ったライブラリーを備え、小規模な講義や講演会ができるホール、書籍やグッズの販売店に、可能ならばチベット美術のギャラリーや民族料理のレストラン等も備えた総合的なセンターがあれば、日本におけるチベット文化の発信地として、チベットに興味をもつ多くの団体や個人に利用していただけると思います。
 現在、チベット関係の書籍・グッズの販売店・ギャラリーは、日本各地に散在していますが、一々の規模が小さいため、なかなか軌道に乗りません。しかしこれらの施設を一カ所に集中することが出来れば、相乗効果があり、経費も節約できることでしょう。
 上述のように、日本のチベット学を取り巻く環境は、きわめて厳しいものがあります。このまま大学や公立の研究機関にチベット研究を委ねていては、世界の大勢に遅れるばかりです。何とか民間の力を結集して、日本にも、きちんとしたチベット文化のセンターを作る時ではないでしょうか。

2008年4月
                                     田中公明
mandala023001.jpg
mandala023002.jpg